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COVID-19ワクチンってどうやって作るの?

ファイザーとモデルナのCODIV-19ワクチンが、承認申請の目前 or すでに申請済み、らしいです。
承認申請とは、それまでに行った臨床試験の結果をまとめて、「ちゃんと効くことがわかったから、一般の人にも使われるように許可してください」ということを、規制当局にお願いすることです。
この場合は、アメリカの規制当局であるFDAに申請を出すということになります。

いよいよ真に有効なワクチンの完成でしょうか?
これで全世界はこの新型コロナという大災害から解放されるのか?
いやがおうにもその期待は高まっています。
アメリカの株式市場ではそれに反応して平均株価が急上昇しているとのことです。

もっとも、油断はまだ禁物です。
数万人規模の臨床試験で有効性と安全性が示されたとは言え、これらのワクチンが実際に使われる際には、億の規模の人数の人に使われることになります。
数万人の試験では見えなかったことが、承認後に多くの人に使われていく中でわかっていくというこが確かにあります。
現時点で手放しで楽観的になるのは時期尚早でしょう。

とは言え、数万人規模の第3相の臨床試験で、しかも二つの別々の試験で、ワクチンの有効性が示されたということは大きな進展には間違いありません。
一つの大きな到達点に達したということは言えるでしょう。

それにしても、新型コロナウイルスというものが全世界的に流行し、パンデミックとしてグローバルな危機になるかもしれない、と多くの人に認識されだしたのは、今年の2月くらいのことではないかと思います。

専門家の間ではもう少し早いでしょうが、それにしても1月から2月にかけての間です。
モデルナは、なんと、2月24日に、第1相臨床試験に使うためのワクチンの最初のバッチを出荷したとプレスリリースしています。
マサチューセッツ州ノーウッドにある工場で100個以上の製品が生産されて出荷されたとのことです。
何という早業!
通常の医薬品の場合、ある病気の薬を作り始めてから臨床試験開始まで、5年程度かかっても普通です。
それがわずか1ヶ月くらいの間でできてしまったのです。
なぜこんなことが可能だったのでしょうか。

 

その最大の理由が、これがmRNA型ワクチン、という全く新しいタイプのワクチンであったことです。
ファイザーのワクチンもmRNAというものを使ったワクチンで、同じタイプです。
mRNAって聞いたことがありますか?
えむあーるえぬえー、とも読むし、mの部分は、メッセンジャー(めっせんじゃー あーるえぬえー)とも読まれます。
物質の種類としては、核酸というものになります。
ここで化学構造式を出すのがよくあるパターンですが、化学に詳しくない人には意味がないと思うので、あえて出しません。
(でも、念のため、リンクを貼っておきます)

 

このmRNAというやつを体に打ち込むと、mRNAの形(配列)に応じて、さまざまなタンパク質を体に作らせることができます。
COVID-19ワクチンの場合は、新型コロナウイルススパイクタンパク(スパイクのSをとってSタンパクとも呼ばれます)と呼ばれる部分を作るタンパクが作られます。

よくあるコロナウイルスの顕微鏡写真(次に示すようなもの)で、丸い本体から無数に飛び出した突起の部分にあるのがSタンパクです。

 

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モデルナ社のワクチンを腕に注射すると、ワクチンに含まれる主成分であるmRNAが、近くのリンパ節まで流れていき、そこにいるリンパ球細胞に取り込まれます。
そして、そのリンパ球細胞が、このウイルスの突起部分(の一部であるSタンパク)を作り始めということなのです。
しかし、安心してください、この突起タンパクが細胞で作られたとしても、ウイルスに感染したことになりません。
これはウイルスのほんの一部だけであり、ウイルス感染によって起こるような症状は出ないということです。
一方、体は、このウイルスの一部を検知すると、丸ごとのウイルスが入ってきたと勘違いします。

そして、この突起タンパクにくっつく抗体を作りだすのです。
実はこの突起部分はコロナウイルスにとって大事なモノです。
ウイルスはこの突起をまず人間の細胞に引っかけ、それを使って細胞の中へ入りこむためです。

この突起がないと、細胞に感染できません。
しかし、この突起部分に対する抗体が体の中にあると、抗体が先にここにくっついてしまうため、細胞に引っ掛からなくなってしまいます。
そうして、ウイルスは細胞に感染できなくなる → 感染予防される、ということになるのです。
ウイルスの泣き所だけをピンポイントで狙うワクチンになります。

 

mRNAを作るには、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)の4つの部品だけあれば足ります。
(上のリンク参照)
これらをある決まった順番で、一続きにつなげていけばmRNAになります。
AAGUUCCAUGGAA・・・みたいにつなげる感じです。
この並び順(配列、シークエンスともいわれます)によって、作られるタンパクが変わります。

ある順番でつなげると、コロナウイルスのSタンパクができるようになるのです。

4つの部品(A、G、C、U)は、それぞれあらかじめ化学合成して大量に作って保存しておくことができます。
そして、作りたいタンパクに応じて、これを決まった順番でつなぐという生産をすればよいのです。
部品をつなぐという工程はもうすでに確立したものですし、複雑なものではありません。
つまり、あるタンパクを作るmRNAを工業生産しようと思えば、すぐにできるということです。

 

COVID-19の場合、そのSタンパクの構造がどうなっているかわかってから、それを作り出すmRNAが工業生産されてできるまで、わずか42日だったということです。
多くのウイルスがちょっとずつ違うけど類似したSタンパクというものを持っており、この部分が感染にとって重要だというのも、共通することだとわかっています。
ですので、新しいウイルスができても、そのウイルスのSタンパクの構造が決まれば、すぐにそれをつくるmRNA、つまりワクチンを作ることができます。

 

実は、このmRNAをワクチンにする、というやり方は、ごく最近になって開発されてきた方法です。

モデルナとか、ファイザーと組んでいるビオンテックという会社は、この技術に特化して最近になって設立されたバイオベンチャーです。


これまでのウイルスのワクチンは、この方法では作られていません。
例えば、インフルエンザウイルスの場合は、まるごとのウイルスそのものを、鶏の有精卵や培養した動物細胞に感染させて、そこで増やします。
工程もずっと複雑で大変であり、必要量のウイルスを生産するのに4か月以上かかるといわれています。

 

mRNAを使ったワクチンが臨床で思っていたように有効に動くのであれば、これまでのワクチンよりも、ずっと素早く生産できると期待されていました。
しかし、それが実際に臨床で証明されるのはもっと先の将来のことだろうともまた思われていたのです。

なにせ、これまでにない、まったく新しい方法なので。
しかし、新型コロナの世界的なパンデミックとなり、非常事態だということで、すべての開発プロセスが急速に進みました。
その結果、この新しいmRNA型のワクチンでも、感染予防効果があり、安全性も大丈夫そうということが示されてきた、というのが今の状況です。

 

モデルナのワクチンが一般の人にも広く使われて、有効であることがわかってくれば、今後、他のウイルスについても、このタイプのワクチンに切り替わっていく可能性があると思います。
開発スピードの早さとともに、すべて化学合成できることで品質が一定に保ちやすいといった、他の利点もいくつか考えられます。
新型コロナがもたらした、大災害中の中でのポジティブな影響、の一つに、リモートワークの拡大とともに、このmRNAワクチンがなるかもしれませんね。

 

 

楽天が売るがんの薬

楽天市場でオンラインショッピングをされる方も多いでしょう。
たくさんの店舗が楽天市場に所属しており、HPの情報によると、商品数はトータルで1億9千点を超えるとのことです。
その楽天が、今回、なんと、がんを治療する薬を売ることになったということです。
それも、その薬の臨床試験から自分たちで進めて、医薬品としての承認を規制当局から得たというのだから驚きです。

 

といっても、これは楽天の本体ではなく、楽天の関連会社である楽天メディカルという会社の話です。

関連会社とはいえ、楽天の創業者である三木谷 浩史氏が、その会長 兼 CEOを務め、陣頭で指揮をとっています。

もともと、この会社は、アメリカのサンディエゴにあるアスピリアン・セラピューティクス社という会社だったそうですが、2016年に三木谷氏が個人で出資して経営に参画し、さらに三木谷氏の主導で大きな資金調達を果たして、2019年に楽天メディカルと社名を変えたそうです。

個人資産を中心に数百億円を投じてきたということですから、その熱の入りようというか、入れ込み方の強さがわかります。

 

何がそこまで三木谷氏を熱くさせたかというと、それは、この会社が開発を進めていたルミノックスという技術です。
これは、これまでにはなかった、まったく新しいメカニズムのがんを治療する薬を作る技術です。

具体的に言うと、これは、がん細胞に結合する抗体と、光(レーザー)によって活性化する化合物を結合させた、一種の抗体医薬になります。

 

抗体というのは、もともとはウイルスや細菌などの感染に対して対抗するために、体の中で作り出される物質です。
ウイルスや細菌に特異的にくっついて、これらを排除することができます。
これを人工的に改変し、がん細胞などの病気の細胞にくっつくようにしたものが、最近、多くの病気の治療に使われるようになってきました。
抗体が主体である医薬品なので、抗体医薬と呼ばれます。

抗体医薬が広く様々な病気に使われるようになったのは、ある特定の物質(抗原と呼ばれます)に非常に特異的に結合するという良い性質が抗体にあるためです。
このため、例えば、がん細胞にだけ存在するような抗原にくっつく抗体医薬を作れば、他の正常の細胞には影響を与えずに、がん細胞だけを攻撃するような薬を作ることができます。


抗体に細胞を殺す薬を結合させた抗体医薬があり、これは抗体ドラッグ複合体(Antibody Drug Conjugate、ADC)と呼ばれます。
実はADCという薬のコンセプトは古くからあり、たくさんの開発がこれまで試みられてきたのですが、成功するものはあまりありませんでした。
その一つの理由は、それらのADCは期待したほどにがん細胞を特異的に攻撃することができず、正常細胞も痛めつけてしまうという副作用が出てしまったことです。
抗体に結合させた薬は非常に強い細胞を殺す作用を持ちます。

それはがんを確実に殺してしまいたいためです。
そして、抗体ががん細胞の抗原に結合すれば、そのがん細胞を効率的に攻撃することができますが、なにぶんにもその薬の細胞を殺す力が非常に強いために、ある程度は正常細胞にもダメージを与えてしまう、ということが起こってしまいました。

その副作用のために、開発が失敗するということが頻発しました。

 

しかしながら、最近では、様々な技術的な改良によって改善され、この正常細胞への毒性という副作用が減ってきています。
そのために、成功するADCが連発するようになってきており、特にここ数年は、ADCという領域が、がん治療薬の世界で、再度、活性化してきているという状況です。
この点も、また別の回に詳しくお話ししたいと思います。

 

楽天メディカルの「イルミノックス」は、ADCの一種ではありますが、抗体に結合させている薬(IR700)の方は、そのままでは細胞に対して毒ではないものになっています。
抗体ががん細胞にくっつき、そこにレーザーを当てたときだけその薬が活性化して、がん細胞を殺すことができるという、非常にうまいトリックが仕込んであるのです。
抗体とレーザー照射の二重の特異性で、正常細胞を守り、がん細胞だけを殺せるようになっています。

 

海外で行われた第2相の臨床試験では、頭頸部がんと呼ばれるがんの患者さん30人にこの薬が試されました。

その結果、13人に治療効果があり、うち4人は完全奏功という、がんがほとんどなくなる状態にまでなるということが示されました。
これらの患者さんのがんは進行性であり、他には治療の手段がないという状態の人たちであったことを考えると、この作用は非常に優れたものだということができます。

 

期待が持てる薬ですが、なにぶんにも臨床試験で試された人数が少ないことから、今回の承認は、条件付きの早期承認という位置づけです。

今後、実際の治療薬としてもっと多くの患者さんに使われていく中で、それが本当によく効くということを証明していくことが求められています。
また、薬を注射した後に、レーザーをがんに照射する必要があるので、この特殊なレーザー照射装置を持ち、またそれを使いこなせる医師がいる病院でないと使えないという制約があります。

 

まだ課題はありますが、これまでにない、まったく新しいメカニズムで、副作用が少なくがんを攻撃する作用が強い薬となる可能性が示されたことは、大きな進歩であると思います。

 

三木谷氏は、すい臓がんになってしまった父親を救いたいという一心で、様々な技術を探し回り、このイルミノックスに巡り合ったということです。

医療の分野には素人であるにも関わらず、このような非常に高度で最先端の医療技術のポテンシャルをかぎ分け、それに大金をつぎ込んで成功させた、そのセンスは、すごいの一言に尽きます。
本業のインターネットモールに関しても、発足当時、多くの専門家がうまくいかないと批判する中で、その将来性を見抜き、進めていった結果、現在の楽天の成功があります。
本物を見極める能力というのは、専門的な知識のあるなしにはあまり関係がないことなのかもしれませんね。

モデルナ社のワクチンは有効性95%!!

ファイザー社のワクチンがCOVID-19の感染を予防する有効性が90%だということが発表されたのは11月9日のことでした。

 

drkaito.hatenablog.com

 

それからわずか一週間あまりの11月16日、アメリカのモデルナ社から、この会社が開発するワクチンにはそれを上回る有効性が示されたという発表がありました。

臨床試験に参加した3万人以上の人の約半数にワクチンを注射し、それ以外のワクチンを注射しなかった人たちとその後の新型コロナウイルスへの感染の数を比べる、という、ファイザー社と同じような試験が行われました。

新型コロナに感染したトータル90人を調べたところ、そのうちの90人はワクチンを打たなかった人であり、逆にワクチンを打った人たちの間では、5人しか感染が見られなかったという結果です。

これを単純に計算すると、「94.5%の有効性」ということになります。

しかも、ワクチンを打っていた人は、感染しても重症にならなかった、という傾向もみられたのことです。

 

ファイザー社の結果は、「90%の有効性」ということでしたから、数字だけを単純に比較すると、モデルナ社の方が良いことになります。

しかし、ここに本当に差があるかは、この規模の試験では何とも言えないでしょう。

3万人とかは、一見多い人数のように思えますが、実際にワクチンが承認されて、一般の人に注射される際には、数千万人とか、億といった単位の人数が対象となるわけです。

そういう段階に行って初めて、どちらの方がどのくらい優れているか、ということがわかってくるでしょう。

また、感染を予防するという有効性だけではなく、安全性が問題ないかどうかということも当然ながら重要で、数万人規模では見えなかった問題が、もっとたくさんの人に投与されることになると見えてくるということもあります。

 

今後、より多くの人に使われるようにならないと、その有効性や安全性に結論を下すことはできませんが、少なくとも、今回の結果は、このワクチンが非常に有望であることを期待させる結果であることは間違いありません。

 

ファイザー社のワクチンとモデルナ社のワクチンの有効性の結果が非常に似ているのには、これらのワクチンが同じタイプのものである、ということが関係しているかもしれません。

実は、これら2つのワクチンは、これまでに一般には使われたことのないワクチンの技術で作られた、まったく新しいタイプのワクチンなのです。

これら二つのワクチンがずば抜けて早く開発が進んでいるのにも、そこに秘密があります。

ここはとても面白い点なので、別の回で、もっと詳しくお話ししたいと思っています。

そもそもワクチンってなんだっけ?

ワクチンは予防薬

ワクチンは治療薬ではありません。

治療薬とは、病気になり、だるいとか熱が出るとか痛いとかいう症状が出てしまってから、それを治す(正確には症状を抑える)ために使う薬のことです。

COVID-19の場合は、レムデシブルとか、アビガンといった薬がこのタイプですね。

これらはどちらも、もう体の中で大々的に増えてしまって、熱などの症状を出しているウイルスが、それ以上には増えないように抑えようという薬になります。

(ただ、もうウイルスは体の中でだいぶ増えてしまっているので、それから薬を使っても、症状を抑える効果は限定的、という結果が出つつあるようです)

ワクチンは、病気になる前、ウイルスが感染する前に使う薬です。

予防する薬、予防薬ということですね。

これをあらかじめ注射(ほとんどのワクチンは注射で投与します)しておけば、その後にウイルスにかかりにくくなる、という効果(薬効)を期待しているものです。

 

ワクチンが働くしくみ

ではなぜ、ワクチンを注射するとウイルスにかかりにくくなるのでしょう?

それは、ウイルスに対する「免疫」が体の中にできるからです。

実は、一言で免疫と言っても、その実態はだいぶ複雑です。

その中で特に大事なのが、「抗体」と呼ばれる物質です。

どんなウイルスでも、一度、それに感染すると、体の中でそのウイルスにくっつく性質を持つ物質 = 抗体、が作られます。

この抗体という物質(タンパクでできているものです)は、感染したウイルスにすごく特異的で、体の中にあるほかのものには、基本的に、ほとんどくっつきません。

ウイルスにのみ特異的にくっつくのです。

抗体がウイルスにくっつくことで、ウイルスに目印・マークがつくことになります。

そうすると、体の中にある「免疫細胞」と呼ばれる細胞が、このウイルスを分解して排除できるようになります。

免疫細胞とは、血液の中にある、いわゆる白血球のことです。

これらの細胞は、抗体が目印としてくっついているウイルスを見つけ、これを攻撃して除去します。

このアクションが起こるためには、感染したウイルスにぴたっとくっつく抗体が体の中にできることが第一のステップとして必要なわけです。

ワクチンは、ウイルスにくっつく抗体の産生を誘導する薬、と言い換えることもできます。

 

ではなぜ、ワクチンの注射によってそういう抗体ができるのでしょう?

よく使われているワクチンの実態は、実は、ウイルスそのものです。

と言っても、それで人に病気を起こしてしまっては元も子もないので、そうならないように、死滅させたウイルス(あるいはほとんど死んだも同然なくらいに弱らせたウイルス)を使います。

ウイルスは死んでいるので(あるいは瀕死の状態なので)、体に注射されても、もう増えて病気を起こすことはありません。

しかし、そのウイルスの死骸は、死んでいるとはいえ、もとの形をだいたい保っています。

そのため、体の免疫システムは、それが体に打ち込まれると、それをウイルスだと認識してしまって、それに対する抗体を作り始めます。

そうやってできた抗体の性質は、普通のウイルスに感染した場合にできる抗体とほとんど変わりません。

そして、一度、体で作られた抗体は、そのあとも、数年以上にわたって体の中に残り続けます。

そうすると、本物のウイルスが体に入ってきたとき、それが体の中で爆発的に増えて症状を起こす前に、体の中に控えていたワクチンでできた抗体がそれにくっつき、免疫細胞により除去してしまうことが可能になるわけです。

つまり、ウイルス感染を防ぐ(実際には、ごく初期に問題になる前に食い止める)ということができるようになるというわけです。

 

COVID-19のワクチンは?

実は、以上のお話は、説明を簡単にするために、だいぶ単純化しています。

特にワクチンは死んだウイルスがその実態という部分がポイントですが、実際には、ほかにも様々なタイプのワクチンがあります。

そして、現在、開発中のCOVID-19のワクチンの多くは、ウイルスそのものではありません。

特に、開発が先行しているファイザー社のもの、モデルナ社のものは、まったく新しいタイプのワクチンで、これまで広く臨床で使われたことがないものです。

ここについてはまた別の回にお話ししていきたいと思っています。

今回は、その前段階として、ワクチンの基本についてのお話しでした。

ファイザー社のCOVID-19ワクチンは効くのか??

世界中で新型コロナウイルス(COVID-19)が猛威を振るう中、それを予防するためのワクチンの開発が精力的に行われています。

実に、約200種類のワクチンが開発中の状態にあると言われていますが、その中で最も進んでいるものの一つであるファイザー社のワクチンについて、11月9日、ついに、それが予防効果がありそうという発表がありました。

4万人以上の人が参加した臨床試験で効果が認められたということなので、これは非常に大きい進歩です。

この臨床試験は、第3相(フェーズ3ともいいます)の臨床試験と呼ばれるもので、本当にその薬が効くのかどうかを最終的に判定するという重要な試験になります。

 

第3相というからには、その前に、第1相、第2相の試験もあるわけです。

これらの臨床試験では、少ない数の人に対して薬を投与し、第1相では安全性が大丈夫かどうかを調べ、第2相では薬の効きがありそうかどうかの予備検討をするという位置づけです。

それで、安全性も大丈夫そう、効きもありそうということが少人数で確かめられた後に、ずっとたくさんの人に対して、本当に安全性は大丈夫なのか、本当に効くのか、ということを第3相で調べるわけです。

 

ワクチンが効くかどうかを調べるという試験は、実は、大変です。

ワクチンというのは、コロナになってしまった人を治すのではなく、コロナにかからなくなる、ということが、その「効き目」=「薬効」になるわけです。

ですので、ワクチンを注射した後に、コロナにかかる人が減ったということを、ワクチンを注射しなかった場合と比較して示さなければいけません。

この試験の場合は、約4万人の人を二つのグループに分け、片方のグループの人にはワクチンを注射し、もう片方の人にはワクチンの成分の入っていない注射をする、ということをしています。

その後に、コロナになったかどうかを追跡して調べるというやり方になります。

全世界的にコロナが大流行していて、毎日、たくさんの人が感染していると言っても、この臨床試験に参加した数万人の人たちが、たちまちたくさん感染するか、というと、実はそうではありません。

今回の報告は、全体で94人の人が発症した時点で調べた結果を発表したというものです。その結果、ファイザー社の報告によると、「90%以上の予防効果があった」ということになっています。

これがどういうことなのか、詳しいところがまだ公開されていないので、断定はできないのですが、単純に考えると、ワクチンを打ったグループでは、そうでないグループに比べて、発症した人が10%以下だった、ということになります。

全体で94人が発症したということですので、単純に考えると、ワクチンを打たなかったグループ(実際にはワクチンの入っていない何かを注射されたグループ)では86人が発症したのに比べ、ワクチンを打ったグループでは8例だけだった、という感じになります。

ただしこれは、両グループの人数が完全に同じだった場合のことで、今回はそこがわかりません。

しかし、両グループの人数があまりに偏っていると、公平な比較になりませんから、だいたいはこういう感じの結果だっただろうと考えることができます。

 

「ワクチンを打っても8人も感染してしまうのなら大したことないんじゃないの??」

と思われるかもしれません。

しかし、ワクチンの予防効果の強さとしては、これはそれほど悪い数字ではなく、むしろ良い方と考えられています。

世界保健機構(WHO)からは、最低50%の予防効果があればワクチンとして認められるという見解が出ているのです。

それから考えれば、この予防効果が本当だとしたら、まずまずであると考えられると思います。

 

ただし、今回の報告は、臨床試験の途中段階での、中間解析での結果報告、という位置づけです。

最終的には、トータルで164名の発症者が出た時点で、ワクチンの効果があるかどうかを判定する、ということになっています。

そのときには、さらに詳しい安全性のデータも加わり、最終的にこのワクチンの価値が評価されます。

そして、その結果、価値があるとされたら、規制当局(アメリカの場合はFDA)が承認することになり、一般の人にも使えるようになるのです。

すべてがうまくいけば、早ければ、今年中に一般に使えるようになるでしょうか?

そうなることを期待したいですね。