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ファイザーの新型コロナワクチンはどのように開発されたのか?

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス(COVID-19)。それを撲滅するための切り札がワクチンです。手洗い・マスク・ソーシャルディスタンスで感染の拡大を抑えることは重要です。が、それは感染拡大のスピードを遅らせているだけで、パンデミック終結にはつながりません。もともと、ただ一匹(一粒?)のウイルスが(たぶん中国で)偶然に生じ、それが世界中に広まったわけです。感染抑制だけで最後の一匹がいなくなるまでウイルスを駆逐することは不可能です。世界中の人の多くに新型コロナに対する免疫ができて、ウイルスが感染する先が見つからなくなったときにはじめて、新型コロナははじめて収束したと言えるでしょう。

 

ワクチンのイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

 

現在、実に、約200種類のワクチンが開発中の状態にあると言われています。その中で、ファイザー社のワクチンが、まずイギリスにおいて使用を承認され、一般への接種が2020年の12月8日から始まりました。それに続いてアメリカのFDAからも承認され、アメリカでの接種も進んでいます。現時点(2021年1月3日)までに、既に200万人の人が接種を受けていると報道されています。いよいよ、新型コロナ撲滅に向かって、その一歩が確実に踏み出されたのです。

 

ファイザー社のワクチン(BNT162b2)臨床試験の結果についてのプレスリリースが、2020年11月9日にあり、90%以上の予防効果が認められたというニュースが世界を駆け巡りました。その高い予防効果の数字に、世界が驚くとともに、パンデミックが起こってから初めて希望の光を見た思いをした方も多いでしょう。

 

この臨床試験は、第3相(フェーズ3ともいいます)の臨床試験と呼ばれるもので、本当にその薬が効くのかどうかを最終的に判定するという重要な試験になります。第3相というからには、その前に、第1相、第2相の試験もあるわけです。第1相・2相の臨床試験では、少人数の人に薬が投与されます。第1相では、健康な人にその薬を投与して、安全性が大丈夫そうかどうかを調べ、第2相では少数の患者さんに薬を投与して、効きがありそうかどうかの予備検討をするというのが基本的な位置づけです。

 

それで、安全性も大丈夫そう、効きもありそうということが確かめられた後に、もっとずっとたくさんの人に対して、本当に安全性は大丈夫なのか、本当に効くのか、ということを第3相で調べるわけです。

 

ワクチンが効くかどうかを調べるという試験は、実は、大変です。ワクチンというのは、コロナになってしまった人を治すのではなく、コロナにかからなくなる、ということが、その「効き目」=「薬効」になるわけです。よって、ワクチンを注射した後に、コロナにかかる人が減ったということを、ワクチンを注射しなかった場合と比較して示さなければいけません。全世界的にコロナが大流行していて、毎日、たくさんの人が感染していると言っても、それは全体的に見た場合の話です。臨床試験に参加した特定の人たちが、たちまちたくさん感染するか、というと、実はそうではありません。ですので、統計的に意味のある数の感染者数が臨床試験の中で観察されるようにするには、何万人もの人を対象にして試験を行う必要があります。

 

最終的な結果のまとめの論文が「The New England Journal of Medicine」という権威のある医学雑誌に発表されていますので、実際はどうだったのかを見ていきましょう。

 

試験には約4万人の人が参加しました。その人たちを、性別、年齢、人種などがだいたい同じになるように二つのグループに分けます。そして、21,720人にはワクチンを、別の21,728人にはワクチンを含まない同じような液体が注射されました。この薬の成分が入っていないものを、プラセボ(偽薬)と呼びます。注射された人(被験者)には、自分がワクチンを投与されたのか、プラセボを投与されたのかがわかりません。これをブラインドテスト・盲験と呼びます。こうすることで、気のせいで効いてしまう(プラセボ効果)が防げるのです。もっとも、ワクチンの場合には気のせいで効いたり効かなかったりはありませんが、自分がどちらを投与されているかをしることで、その後の行動に差が出るかもしれません。ワクチンを投与されたことで、より無防備に飲み会に行ってしまうとか、そういうことです。

 

この1回目の注射の後、21日間あけて2回目の投与がなされました。その後、観察を続けたところ、両グループあわせて合計で170人の感染者が出ました。そのうち、162人はプラセボを投与したグループから発生しており、一方、ワクチンを投与したグループからは8人しか感染者がでませんでした。あきらかにワクチンが感染を防いでおり、またその有効率は95%だと計算されたという結果です。

 

11月に行われたプレスリリースは、試験の中間発表であり、両グループ合わせて94人の感染者が出た時点での結果が速報として発表されました。その時点で、ワクチングループから8人、プラセボグループから86人の感染者が出たと言われていました。その後、観察期間を延ばすことによって、プラセボグループの感染者はおおよそ倍に増えましたが、ワクチングループの感染者はまったく増えなかったことになります。

 

「でも、ワクチンを打っても8人も感染してしまうのなら大したことないんじゃないの??」と思われるかもしれません。しかし、ワクチンの予防効果の強さとしては、これは悪い数字ではなく、逆に非常に良い方だと考えられています。世界保健機構(WHO)からは、最低50%の予防効果があればワクチンとして認められるという見解が出ているのです。また、上述したように、観察期間を延ばしてから感染者が増えなかったということは、この8人の感染者は、まだ十分に免疫ができきっていなかったから感染してしまった可能性も考えられます。いずれにしろ、感染の予防効果があることは間違いないと結論づけられます。

 

気になる安全性の方ですが、こちらも、素晴らしいことに、シリアスな毒性は、少なくともこの試験内においては見られなかった、ということが論文に報告されています。投与後の数日間に、注射をした個所の痛み、疲労、頭痛といった症状が、ワクチン投与グループの人たちに見られました。しかしそれは軽度から中程度の毒性と判断されています。ワクチンを投与したためと考えられる重篤な毒性は見られなかったという結論です。

 

この良好な結果をもとにファイザーのワクチンは承認され、今やアメリカ、イギリスをはじめ、各国で一般の人への接種が行われています。バイデン次期大統領をはじめとする著名人が率先して接種を受けることで、一般の人への浸透を加速化させようという動きも出てきています。日本にもファイザーから申請がなされており、現在、審査中です。早ければ2021年の2月下旬には投与が開始できるかという報道もなされていますが、できればもっと前倒しできないものかと思います。先の臨床試験にもアジア人がワクチングループで800人ほど入っており、アジア人における安全性についての基本的なデータはあるとも言えるでしょう。ウイルスの変異体の出現が話題になっていますが、それを抑えるためにも、できるだけ早期でのワクチンでの抑え込みが必要ではないかと思われます。

 

いずれにしろ、人類はついに、この未曽有の世界規模での大災害を封じ込める武器を手にしたのです。それをどれだけうまく使いこなし、できるだけ早く災害を抑え込むかは、人間がどれだけ賢く行動できるかにかかっています。我々がどれだけ賢い者なのかを、新型コロナウイルスは、じっと見守っていることでしょう。

 

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